第40回ぴあフィルムフェスティバル コンペティション部門の感想

始めに断っておきますが、映画ファンでもメディア関係者でも創作者でもない一個人の感想です。

 

◆前書き

最近もっと視野を広げようと、今は芸術関係に興味があって美術展やらドキュメンタリー映画やら見ていて、映画祭でも見てみようかと思って初めて見に行きました。

自主制作という事でいうと、二次創作が中心ですが5年間くらいニコニコ動画でストーリーのあるものだけで数千本見てはいるし、自分でも実写ではないものの3DCGで映像を作った経験はあるので、消費者・評論家目線とは違う目線で書けるとは思います。


◆全体を通して

ネット配信も含めて自主制作映画は全作品見ました。

自主制作映画はほとんど見たことが無いので上映作品以外と比べることはできないですが、色々と刺激になりました。
そういう意味では見に行って良かったです。


という事を前提に遠慮なく書くと、ぼやっとした作品が多かった。

招待作品部門のロバート・アルドリッチ作品も半分くらい見ましたが、映画が紙芝居の時代からテレビの時代に変わる間の映画表現が発展する時期の作品を見て感じるところは、映画はやはり娯楽。

表現したいこと・伝えたいことがあるにしても、映画という表現を選ぶ以上、それは観客を呼び込んで興奮させる作品であることが大事なんじゃないかということ。

ただ自身を見つめたいということであれば自分はブログ記事でも新聞・雑誌の寄稿でも数分で読めるもので十分足りているし、映像や書籍に比べて凝縮されている分無駄が無くて良い。


ともかく日常的なシーンが大半を占めているわけだけど、そういったシーンをもっと記号的に表現しても主題は損なわれることはないと思うんですけどね。

映画で日常を見せるっていうことは映画を見に来た客からしたらわざわざ映画で見せられる映像ではないはず。
映像にされなくても想像できちゃうんだから。
そういうことは議論されていないのだろうか。


全体的に、子どもや女性など、周りの環境などの影響を受けて生きていかなくてはいけない人たちが主人公になるケースが多いと感じた。

あともう一点。

上映作の半分以上が専門学校・大学の作品だったけれど、これが映画制作を教えている現場の表現だとすると日本映画の内面や情緒・情感といった部分の表現に長けた面は教育の現場にも浸透していると思った。


では個々の作品に一言ずつ。

◆Good bye, Eric!

ロードムービー
紹介文通りなら良かったけど結構普通でしたね。
キャストも一般人との事だったのでとっても「普通」感が出ていたかな。

その域まで持っていくのも難しいと思いますが。

まあ、電波少年とか水曜どうでしょうとかありますし、う~ん・・・


◆一文字拳 序章~最強カンフー少年 対 地獄の殺人空手使い~

面白さと映像の出来から言ったらダントツです。
アクションシーンを中心に長時間の撮影を編集で必要なシーンだけにしているところなど、レベルの高さが感じられました。

ただ私は推薦文に書かれているような悩みは印象に残らなかったです。
それよりは監督のコメントにある「仲間」のほうが印象に残りました。


◆カルチェ

思った以上にSFしていました。
ただ、言語を架空のものにするなどはあるものの、もっと異世界感があって良かったと思います。
あまり現実との対比が無かったので間延びした感じ。


◆貴美子のまち

この作品で描かれている主題は母親、特に主婦だったらみんな何度か思いつく事だと思います。
それをきちっと映画にできる監督の才能がすごい。

それにすべての登場人物が立っている。
つまり、説明が無くても役割が明確で、シーンが切り替わったり登場人物が増えてもストレスにならずに物語に集中できた。

お母さんもスペック高いのがまた面白い。


◆ある日本の絵描き少年

主人公はそれほど特別ではないマンガ家の夢破れる青年だけれども、個性的なお友達との対比があることでとてもユニークな作品になっていた。
映像表現も意欲的で見ていて面白かったし。


◆オーファンズ・ブルース

『ある日本の絵描き少年』とセットで上映されたこの作品も記憶障害のある女性が主人公。
色々と寂しさがこみ上げてきました。

この作品には救いがないですけど、そうでない作品も見たいですね。
そういう意味では『ある日本の絵描き少年』は前向きで良かったし、この作品は荒廃していて夢がない。


◆わたの原

これは良く分からなかったですね。
対談で言われていた通り、自分も男性の事は気持ち悪いと思ったし。
各シーンが長いわりに何を表しているのか伝わってこなかったなと。


◆すばらしき世界

セットで上映された『わたの原』と比べるときちっと作られていて、対談が盛り上がらなかったのは両監督に共感し合う点が乏しかったからではないかと感じた。

だいぶリアリティがあって、現実的には大人の判断が後先考えると正しいのだろうけど子どもにとっては耐えがたいことだろうなという、どうにもならないもどかしさがあった。

そうはいってもよっぽど幸せな人でない限り大なり小なりこういった家庭の事情は経験しているはずで、もう一歩欲しかったなぁ。


◆からっぽ

この作品は私は好きです。
私の勝手な思い込みでは男はこういうからっぽという感覚を抱かないと思うのだけど、女性はどれくらいの人がこういう感覚を持つのだろうか気になる。

色々なことを器用にこなしつつ自分には何もないという評価はつまり、周囲からの評価と自分自身の評価のギャップからくるもので、結局それはありのままの自分を受け入れてくれる人を見付けることで満たされるはず。

だけど作品はちょっと変な方向に行ったな。
その意味するところが、最後逃げ出しちゃったように見えて良く分からなかった。


◆愛讃讃

映像が面白かったしストーリーも興味深かったけど消化不良で終わってしまった。


◆シアノス

もっとミステリーっぽさがあるのかと思ったけれど普通なまま終わってしまった感じ。


◆山河の子

私自身はドキュメンタリーに興味があるので面白く見ました。

学校に企業がイメージアップ目的でボランティアに来るシーンだとか色々露骨なシーンはあったけども、別に今の日本だって似たようなもの。
そうした現実を思い起こさせてくれる作品だったけどもそれが分からなかった人もいたみたい。


◆19歳

これは監督が「自分のことしか考えてない自分が映っていた」みたいに言っていて、私はとてもそういうところがあるのでちょっとドキッとしたけども、『からっぽ』と共通点があるように私は思っていて何となく好きな感じでした。


◆シャシャシャ

これはあらすじを見ていなかったので、最初が彼女との別れのシーンだとは気付かなかった。
話は分かり辛かったけど、監督に舞台経験があるからか所々で観客を楽しませるような場面が見られたのでその点は良いと思った。


◆川と自転車

この作品の良さは私にはわからないです。


◆最期の星

あらすじを見ていなかったので、さっちゃんと現実で交流が無かったとは思っていなかった。
喪失感が良く表れている作品だと思ったし、ちょっと現実離れしたさっちゃんの表現などとっても丁寧。


◆モフモフィクション

元の題名のモフモフ動物図鑑の方が合ってる感じがした。

対談で『小さな声で囁いて』の監督が指摘したようなことを私も思って。
今時NHKの子ども向け番組でもこんなに内容の薄いストーリーは作らないし、そこにもっと深い何かが隠されているのではないかと考えるのは無理もないことだと思う。


◆小さな声で囁いて

なんだかだらだらしていた印象。
あと、協力してくれたホテルの人が見たらすっごく嫌な気持ちになるだろうなとか、そんなことが気になってしまった。
おそらくフィルムコミッションはこれまで何度かそういうことがあって、もう試写を見るのは止めているんだろうと想像する。


◆運営とか

最後に更に余計なことを書いておく。
別に提言とかじゃなくて私の個人的な感想なんだからいいじゃない。


何人かの監督が言っていたけど、客の入りが悪いですね。
映画祭の目的は色々あると思うけども、結局この映画祭に出品する価値があるかどうかっていうのは席をどれだけ埋められるかじゃあないのかな。

たくさんのサポーター・協賛がいるけども、PFFの事なんてまったく聞いたことないし、映画業界人・映画ファンのためのイベントという感じが結構した。

今の日本の映画はそういう存在なんだという諦めなのかもしれないけども、上映作品を見てもちょっと残念という印象です。

待合室の作りやチケットの販売、パンフレット、運営挨拶、対談などなど全体を通して、PFF運営は自由闊達なやり取りができなそうな雰囲気を感じた。
それも含めて良い経験ができたし、行って良かったと思っていますが。